
みなさんは、物語を考えるとき、どのような方法や手順で考えていきますか? 企画やアイデア出しの方法は人それぞれのやり方があるかと思います。今回は、物語のアイデア出しの方法として「ハコ書き」について解説していきます。これは長編映画やショートドラマ、漫画原作、といったどのジャンルでも使える方法ですので、是非、活用してみてください。
脚本作成におけるハコ書きとは?
普段から脚本を書いている方でしたら、「ハコ書き」という言葉を一度でも聞いたことがあるのではないでしょうか。脚本制作における「ハコ書き」とは、脚本全体の構成を組んでいく際によく使われる手法です。「ハコ書き」の「ハコ」とは、その言葉のまま「箱」を意味しています。4コマ漫画をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。
物語の大筋は決まっている場合、起承転結で構成をしていくとしましょう。4コマ漫画の1つ目のコマを「起」、2コマ目を「承」、3コマ目を「転」、4コマ目を「結」として4つ大枠のハコで分類します。これが「大ハコ(オオハコ)」です。そこから、4つの「大ハコ」を更に細分化していきます。例えば、1つめの大ハコが【太郎がコンビニに買い物に行く】だったとします。そこをさらに詳しくしていきましょう。つまり、出来事や考えていること。目的を明確にする。といった具合に内容を詰めていきます。これを「中ハコ」といい、更に詳細にしたもの(細かい描写など)が「小ハコ」です。
1「起」
大ハコ「太郎がコンビニ買い物に行く」
中箱「ポケモンカードを買う目的」「売り切れる前に急ぐ」「母からアイスを買ってきてと頼まれた」
小ハコ「走るか、自転車で行くか迷う」「雨が降って来そうな曇り空」
といったイメージです。
これを起承転結の最後まで細分化していき、脚本(物語)の流れや構成を組み替えたりしてシーンを作っていくという方法。これが、構成を作るためのハコ書きです。
アイデア出しのハコ書きとは?
脚本の構成を作るためのハコ書きの意味や手法を知ったところで、次は、アイデア出しのためのハコ書きについて見ていきましょう。0から1を考えようとしたとき、なかなかアイデアが出ない、物語としてまとまらない、といったときに役立ててみてください。
まずは描きたい場面を大ハコに書き出す
0から1を考えるとき、ジャンルやテーマ、予算など余計なことは頭から除外して、自分が描きたい場面を大ハコとして書き出していきましょう。思いつく限り幾つでも良いです。そして、この段階では、それぞれを無理やり結び付けようとか、関連付けようとしなくて大丈夫。全然関係ないことで問題ありません。例えば以下のようなイメージです。
描きたい場面(大ハコ)
①アンドロイドの美少女が大雨の中、びしょ濡れになりながらも何かを拾い集めている。
②お笑いコンビがネタ作りで大喧嘩している。
③少年が薄暗い部屋で一心不乱に漫画を描いている。
④女子高校生が体育倉庫の中で別の女子高校生を追い詰めている。手にはナイフが握られている。
このように、ジャンルも繋がりも世界観も関係ない形で自由に思いつくままに書き出していきます。出し切ったら、次は「大ハコ」を更に詳細にしていきます。「大ハコ」→「中ハコ」詳細化の作業です。
「大ハコ」から「中ハコ」へ詳細にする
「大ハコ」から詳細に「中ハコ」にしていく作業。ここでも、別の大ハコとの繋がりや関連付けはせずに、イメージできる限り詰めていきましょう。
①大ハコ【アンドロイドの美少女が大雨の中、びしょ濡れになりながらも何かを拾い集めている】
・何を拾い集めている?→手書きのスコアシート(楽譜)。鉛筆描きの絵。食べ物。=大切なモノ
・この場面の印象は?→大雨の中びしょ濡れのアンドロイド美少女。
周りには彼女を見て人だかりができている。
誰も声を掛けない。=哀れみ?同情?軽蔑?人間味?変化の象徴?
・美少女の感情は? →アンドロイド的な無表情。ひたすら拾い集める様子。=無感情? 悲しみ?
・シチュエーションは? →学校の中庭。商業施設の広場。

ハコ書きは箇条書きで短文のメモのような形で大丈夫です。自分が分かればOK。
一度、関連性を考えてみる
全ての「大ハコ」を「中ハコ」に詳細化し終わった時点で、それぞれの大ハコに関連性や繋がりがつけられるかどうかを一度見直して考えてみます。
大ハコ①「アンドロイドの美少女が大雨の中、びしょ濡れになりながらも何かを拾い集めている」
・何か大切なモノ→楽譜。絵。食べ物。
・大勢の野次馬も気にせず。無表情?
・学校の中庭。商業施設の広場。
大ハコ③「少年が薄暗い部屋で一心不乱に漫画を描いている」
・ライターズハイになっている?狂気的?
・漫画家になりたい夢。コンクールが迫っている。
・暗い部屋は少年の作業部屋。誰もいない。
関連や繋がりがありそうな要素を探してみましょう。
大ハコ①アンドロイドの美少女が拾っているモノは大切なモノ。
大ハコ③少年が一心不乱に描く漫画。少年の大切なモノ。漫画家になりたい夢。
●アンドロイドの美少女が大雨の中、少年が描いた漫画の原稿を拾い集めている。
大ハコ①と大ハコ③で繋がりができましたね。ここから更に発展させてみましょう。
アンドロイドの美少女は少年にとって近い存在(家で雇われている?クラスメイト?)。少年はコンクールに落選して、せっかく描いた原稿を外にバラ撒いた。原稿は雨に濡れてぐちゃぐちゃに。アンドロイドの美少女がとっさに駆け出して原稿を拾い集める(プログラムの誤作動?人間味の出現・変化)。
このように断片的な繋がりを見つけるだけでも、その場面が印象的なモノになっていく感覚を掴んでいただけるかと思います。
「小ハコ」に詳細化していく
「中ハコ」を書き出した時点で繋がりを見つけられなかったとしても問題ありません。また上記のような繋がりを見つけられた方もその調子で続けていきましょう。次は、更に具体的に詳細を詰めていくために「小ハコ」を書き出していく作業です。自分の中で項目を設けても良いので、できる限り具体的にしていきましょう。
大ハコ①「アンドロイドの美少女が大雨の中、びしょ濡れになりながらも何かを拾い集めている」
中ハコ・何か大切なモノ→楽譜。絵。食べ物。
・大勢の野次馬も気にせず。無表情?
・学校の中庭。商業施設の広場。
小ハコ
項目:美少女のプロフィール:年齢18歳。女子高校生の姿(制服)。高校生として通学。
拾っているモノ:少年が描いた漫画の原稿(大ハコ③より)
場所・シチュエーション:学校の中庭。大雨。
出来事:少年が高層階の教室からコンクール落選原稿をばらまいた。それを見た美少女が
とっさに駆け出して拾い集める。野次馬で生徒たちが見ている。
感情:プログラムへの抵抗。人間らしさの出現。大切なモノを守りたいという感情
上記のように、人物のプロフィールを詳細にしていく(ディテール設定)作業や、場所、動作、感情、と様々な視点で詳細に具体的に書き出していくことで、他の大ハコ(中・小ハコ)をの繋がりを探っていくことで、物語が徐々に形になっていく感覚を掴んでいただけるかと思います。
また、この時点でどうしても繋がりが掴めない大ハコ(中・小ハコ)がある場合は、無理に繋げようとしなくても大丈夫です。アイデアとして別作品に持ち越そうと割り切って、今回はボツとして頭の中の別フォルダーに保存しておきましょう。所謂、アイデアストックですね。勿論、欲張って、無理やり変更して繋がりを作るのがダメということではありません。微調整をして繋げたことでいい物語の構成や流れができることもありますから。ただ、一つ注意点としては、脚本を作る作業の中では、自分としては描きたい場面なんだけれど、どうしても削らなければいけないということが良くあります。作品を良質なものにするには必要なことなので、時には割り切りや諦めも大切だということを知っておいていただくと良いかと思います。
物語として構築していく
ここまで、アイデア出しのためのハコ書き手順や考え方をお話してきましたが、ここからは、物語としての流れや世界観、テーマやジャンル、といった部分を構築していく作業に取り掛かっていきましょう。もうお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、ここまである程度アイデアとして出てきたハコ書きを、最初に説明したように、構成を組んでいくハコ書きの流れに戻っていただければ良いです。
アイデア出しのハコ書きで書き出された内容は、「自分が描きたい場面」でしたね。つまり、ここまでで出た大ハコ(中・小ハコ)は、物語の中で象徴的なシーンとも言えるのです。それは、クライマックスシーンとなるかもしれませんし、中盤の物語が大きく変化するシーンにハマるかもしれません。
自分が描きたいシーン=物語の象徴・核となる大切な場面
ここからは、その【大ハコ(中・小ハコ)物語の象徴・核となる大切な場面】に向かって、始まりから固めて作っていく工程に移りましょう。
やり方は自由です。例えば主人公のディテール(年齢・職業などのプロフィール)から考えて行ってもいいですし、世界観(時代設定、シチュエーション、登場人物たちの環境など)を決めて行ってもいいです。ハコ書きを使って細部を固めていくのも良いでしょう。
ここでの注意点としては、ジャンルやテーマに捕らわれないようにした方が良い、ということです。アイデア出しのハコ書きは、自分の描きたい場面、つまりジャンルやテーマに縛られない自由な発想から生まれているモノですので、これまで説明した工程を最後までやり切ってみると、そこで自分が描きたかったテーマやジャンルが明確になるということもあります。
ハコ書きの活用 まとめ
最初にお話しをしましたが、ハコ書きは、「物語の構成を組んでいく」目的と「0→1のアイデア出しをする」目的に活用することができる方法の一つです。プロの脚本家(作家)さんの中には、ハコ書きはしないという方も多くいます。理由としては、どうせ後から修正するから。だったり、アイデアのストックは尽きないから。ハコ書きはそもそも自分の手法とは合わない。ということをよく聞きます。脚本の創作方法は人それぞれ。最初からテーマやジャンルを決めてから作る方が良いという方ももちろんいらっしゃいます。ですので、もし、どうしてもアイデアが浮かばなくて苦しんでいるという方は、試しに「アイデア出しのハコ書き」という手法を試していただくも何か打開のきっかけになるかもしれませんので、知っておいていただけたら良いかと思います。